地球科学を専門とし、化学分析を駆使して地球や惑星の成り立ちから身近な環境問題まで幅広く探求。数年前、ひょんなことから始まったネオケミカルとの共同研究。第一線で活躍する研究者の目に、地域に根差す化学メーカー、ネオケミカルの技術力や設備はどのように映っているのか。その驚きと評価について、率直に語っていただいた。
私たちの共通点は、いかに高純度の試薬を作り、それを維持できるかという点です。私の研究では、例えば隕石に含まれる1億分の1グラムといった、ごくわずかな元素の濃度や同位体を測ります。そのためには、実験室や使う試薬が汚れていては、何を測っているのか分からなくなってしまう。だからクリーンルームが必須ですし、試薬も極限まで綺麗にする必要があります。
ネオケミカルさんも、高純度な試薬を作るのが仕事ですから、ここが一致したわけです。共同研究では、より綺麗な試薬をどう作るか、そして、せっかく作った綺麗な試薬を汚さずに保管するはどうすれば良いか、といった研究を進めています。
また、環境分析の分野でも、例えば雨水や地下水の分析を共同で進めています。この共同研究を通じて、例えば岡山市内のわずかな距離でも雨水の化学組成が少し違う、といったことが見えてきました。地下水の研究では、学会発表レベルの成果も出つつあります。こうした分析には、非常に高い精度と、微量な汚染も見逃さない環境、そしてそれを扱える技術が不可欠です。
正直、「大学から見たらびっくり仰天」レベルです。まず、クリーンルームがすごい。私たちの研究室にもクリーンルームはありますが、ネオケミカルさんは分析装置自体をクリーンルームの中に入れている。これは測定中の汚染を防ぎ、元素にもよりますが1兆分の10グラムレベルの超高精度な分析を可能にする上で非常に重要です。しかし維持費が莫大にかかるため、大学ではまず真似できません。
ICP-MSのような数千万円クラスの装置だけでなく、イオンクロマトグラフィーのような数百万~一千万円クラスの装置も、何事もないかのように複数台ポンと置いてある。個々の装置もさることながら、その種類の豊富さと「数」には驚きました。岡山の理学部全体を見ても、あれだけの装置群はないでしょう。こんなすごい設備が、こんな近くにあったのか、と本当に驚きましたね。
ICP-MSなどの最新の分析装置は、よく「F1マシン」に例えられます。高性能ですが、扱う人の技量によって結果は全く変わってきます。マニュアル通りに動かせば、それらしい数字は出ますが、それが本当に「正しい」データかは別問題なのです。
例えば、クリーンルームや高純度試薬の重要性を知らずに分析すれば、試料ではなく試薬や環境の汚れを測ってしまうかもしれません。また、装置のチューニング。ガス流量など細かい条件設定でデータの質は大きく変わります。これはもう、家電製品とは違う、専門的なノウハウの塊なんです。
装置が優秀な分だけ、「とてつもなく精度の良い、間違ったデータ」を出してしまう可能性すらある。それを防ぐには、化学や装置に関する深い知識と経験が不可欠です。
ネオケミカルの分析技術は非常に高いレベルにあると思います。特に松本さんは、単なる装置の「ユーザー」ではなく、分析方法自体を開発できる「開発者レベル」の方です。博士号をお持ちで、機械にも非常に強く、装置のことを本当によく知っている。どうすれば最適なデータが得られるかを常に考え、実践されている。これは大学院の修士レベルでもなかなか難しい、非常に高度なレベルです。
ただ、装置があるだけではダメなんです。ネオケミカルさんの強みは、あれだけの設備があるだけでなく、それを使いこなし、さらに開発までできる優秀な人材がセットになっていること。分析を依頼する際も、必ず標準物質(値が分かっている基準となる物質)でのデータ検証を求められます。これは、データの質をいかに重視しているかの表れで、研究者として非常に信頼できます。あれだけの多種多様な装置を維持管理できる能力も素晴らしいですね。
中平社長は、ご自身が化学を理解されており、私たちの研究の進め方や考え方に深い理解を示してくださっています。「とにかく早く成果を出してほしい」という姿勢だったら、多分お断りしていました。私たち研究者は、データの信頼性を何よりも重視しますから。
ネオケミカルさんも「とにかく良いものを作りましょう」という考え方。成果を急がず、本質を追求する姿勢が私たちと一致しているんです。だからこそ、お互いにとって有益な、ウィンウィンな関係で研究を進められています。企業の利益目標と、我々アカデミアの真理探求。方向性は違えど、質の高い仕事を目指すという点で共感できる部分が大きいですね。
私の専門(宇宙・地球科学)と、ネオケミカルさんの主力製品(有機系の試薬)は少し分野が違うので、事業内容について詳細に語るのは難しいのですが…。ただ、一緒に仕事をしていて感じるのは、分析技術のレベル、設備の充実度、そしてデータの質に対する真摯な姿勢は本物だということです。社員の方々の定着率が高いという話も聞きますし、それは客観的に見ても良い会社の証だと思います。
もし学生から相談されたら、「分析技術や研究設備という点では、大学の研究室では経験できないような、非常に高いレベルの環境がある。興味があるなら、ぜひ自分の目で確かめてみたらいい」と紹介するでしょうね。探求心があって、本物の技術に触れたい学生にとっては、非常に面白い挑戦ができる会社だと思います。